2026.05.13
研究レポート
【総説】CIの機能と応用
- #口腔ケア
- #総説

- 本総説ではう蝕や歯周病の直接的な原因となる口腔バイオフィルム(歯垢)が形成されるメカニズムからCIの作用機序と技術的背景、応用事例、処方設計上のポイントについて概説しています。
- 全文(日本語)はこちらより読むことができます(PDFファイルが開きます)。
背景
う蝕(虫歯)の罹患率は依然として高く、フッ素や殺菌剤によるアプローチや、非う蝕性甘味料の利用が勧められてきましたが、う蝕の発生を完全に防ぐことは困難です。しかしCIは細菌そのものを殺すのではなく、う蝕や歯周病の直接的な原因となる口腔バイオフィルム(歯垢)の形成を機能的に阻害する非殺菌型のアプローチが可能です。CIは1990年代に発見された環状オリゴ糖ですが、当社により2021年に量産技術が確立され、実用化が始まりました。
口腔バイオフィルム形成メカニズム
歯垢は口腔内細菌と不溶性の多糖からなるバイオフィルムであり、ミュータンス菌 (Streptococcus mutans) がGTF (glucosyltransferase) によって糖質から不溶性グルカンを産生し、それが菌体と絡み合って歯面に付着することで形成されます。歯垢の中で細菌が有機酸を産生し、エナメル質を脱灰することでう蝕が発症するほか、歯周病菌の定着・増殖を助長することで口臭や誤嚥性肺炎などのリスク増大を招きます。したがって、「歯垢を形成させない」ことが口腔トラブル予防の理想的な方策と言えます。
CIの作用機序と技術的背景
CI存在下では、ミュータンス菌のGTFによる糖質からの不溶性グルカン合成が著しく抑制されるため、歯垢形成そのものが阻害されます。その分子メカニズムは計算科学的研究によれば、CIはミュータンス菌のGTFの一つであるGtfCのグルカン結合部位に対する結合親和性が高いことが報告されています。すなわち、CIがGTFのグルカン結合部位をブロックすることで不溶性グルカンを伸長する反応が阻害されるというこれまでの仮説を支持するものです。一方、組換えタンパク質を利用した研究では、CIがGTFの活性中心にも競合的に作用し、基質であるショ糖の利用を阻害することも報告されています。すなわち、CIのGTF阻害効果は酵素のグルカン結合部位のブロックに加えて活性中心の作用阻害という二重の機序で発揮されることが示唆されます。実際にCIのGTF阻害効果は極めて強力で、低濃度でも発揮されています。
さらに、ミュータンス菌感染ラットを用いたう蝕モデル試験において、プラークインデックス(歯垢の付着具合の指数)とう蝕スコアが有意に低減したことが報告されています。臨床に近い評価系として、ヒトの口腔環境を模した人工口腔装置による試験でもCI添加によって歯垢形成が有意に減少し、エナメル質の脱灰指標も有意に低下しました。最後に、ヒトを対象とした臨床試験においても、3日間の介入でプラークインデックスが有意に低下しました。興味深いことに、CIはこのような抗う蝕効果を示すにもかかわらず、口腔フローラのバランスを崩さないことも示唆されています。
応用事例と処方設計上のポイント
このようなCIの優れたプラークコントロール機能を製品へ応用するべく、食品から口腔ケア製品分野まで幅広い開発が進められています。CIは無味無臭で他成分の風味を損なわないほか、水溶性・安定性に優れていることから様々な剤型やシーンで取り入れやすい素材です。
食品用途においては、口腔ケア志向のノンシュガー食品への採用はもちろん、従来は難しかったショ糖を含む菓子類でのう蝕リスク低減食品への応用が可能です。口腔ケア用途においては、水溶性に優れることから歯磨き粉やうがい薬、洗口液のような水性組成物に容易に組み込むことができます。CI自体には殺菌作用が無いため、セチルピリジウムクロリド (CPC) などの殺菌剤と組み合わせることで、相補的なう蝕対策となることが期待されます。作用機序が異なることから、キシリトールや乳酸菌などの他の口腔ケア素材との相乗効果も期待されます。
さらには、イヌやネコでも歯垢の蓄積や歯周病は発生しうるものの、動物ゆえにセルフケアは難しいことから、ペットの口腔ケアへの活用も期待されます。また、スポーツ選手はエネルギー補給のため糖質飲料や捕食を頻繁に摂取することからう蝕リスクが高まりやすい傾向が指摘されています。そのため、スポーツドリンクやプロテインバーにCIを配合することでアスリートのう蝕予防に貢献できる可能性も考えられます。最後に、砂糖そのものにCIを混合して抗う蝕化した製品も考えられます。将来、家庭用の砂糖などにCIが添加されるようになれば、日常のあらゆる食事シーンでう蝕リスクを低減できるかもしれません。
引用文献
加藤 (2026) 口腔バイオフィルム制御素材サイクロデキストラン(CI)の機能と応用. 科学と工業. 100(3): 59-64
https://osakaira.com/magagine/
全文は一般社団法人大阪工研協会事務局の許可を得て掲載しております。
※本内容は当社製品の効果効能をうたうものではありません。
※本内容は食品または化粧品業界の関係者並びに関連する業務に従事している方への情報提供を目的としたものであり、一般消費者の方に対する情報提供を目的としたものではありません。
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